ハイパー★バレンタインデー |
(ハジメニ:うちのアーククルは、アークが料理上手で、ククルがド下手。ククルさんは
アークが帰って来るたびに、いつもご飯を作らせてます。そして自分は食べる専♪)
ハイパー★バレンタインデー
冬らしい淡い水色の空が広がる昼下がり。気温は3℃、湿度は35%、このクソ寒い中
、部屋に帰るのが面倒だったという理由だけで、屋外で一夜を過ごしたヘモジーの体温は
39℃だった。(どうでもいい)
そんな穏やかな天候のトウヴィルに、またもや騒動が起きた。騒動の元はもちろん、あの
バカップルの片割れ…。
ちゅどーーーん!!!
「キャーーーー!!」
「いやーーー!!大丈夫ですか?!ククルさーーーん!!」
突如ククルの神殿に響く轟音。爆発は神殿の炊事場から起こったものだった。
「何これ?!このオーブン爆発しやがったわよ?!そりゃ確かに今朝からフル活動させて
るけど、何も爆発することないじゃない!!私はあんたにそこまで無理させたっていう
の?!!!」
「ククルさん、爆発したオーブンにキレたってしょうがないですよ(汗)」
オーブンの残骸にすさまじい剣幕で怒鳴りつけるククルに、リーザがわてわてと宥める。
「とにかく、神殿のオーブンは壊れちゃいましたから、シルバーノアから一つ借りてきま
しょう?今日中に焼き上げないと、アークさんに渡す機会がなくなっちゃいますよ?」
「う…。そ、そうね。壊れたオーブンごときに目くじら立ててる暇はないわよね。」
怒りから我に帰ったククルが、急いで散らばったオーブンの破片を拾い集めようとすると、
廊下からバタバタと誰かが走ってくる音が。
「何があった、ククル?!今、炊事場からすごい轟音が…」
「来るんじゃなぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」
心配して駆けつけたアークとエルク目掛けて、本日二度めの轟音(in炊事場)が響き渡
る!!もちろん前回と違い、今回の爆発は意図的なものである。
「はぁーー、いけないいけない。もう少しでアークにばれちゃうところだったわ。」
天の裁きで気持ちよくかいた汗を拭いながら、ククルはほっと胸をなで下ろした。
「やっぱり渡す直前まで秘密にしておいて、びっくりさせたいもんね♪」
「いや、もう十分過ぎるほどびっくりしてると思うんですけど…。」
アークとエルクがすっ飛んでいった彼方の空を見詰めながら、リーザがぽそっと呟く。
「まあ、あいつらのことはどうでもいいわっ。それより早くクッキーを完成させましょ♪」
プレゼントを渡す相手を“どうでもいい”と称して、ククルは再びクッキーの生地と格闘
を始めた。
2月14日…。俗にいうバレンタインデーである。
恋人のいる女なら、ここぞとばかりに頑張らなきゃいけないだろう一大イベント!当然ク
クルも例外でなく、アークのためにチョコを渡そうと張り切っていた。しかし妙なところ
で女の意地を張って、市販のチョコでなく、手作りのチョコレートクッキーを渡そうと奮
闘しているのだった。料理の講師は例のごとくリーザ。丁寧で優しいリーザのアドバイス
も空しく、ククルの料理下手はある意味神の領域に達していた。
「はぁーーー。やっぱり私、料理の才能ないなーーー。」
本日5度目の失敗作を前に、ククルはため息をついた。味見をするために一つ口へ放りこ
んだクッキーをガリガリと音を立てて租借する。今度のクッキーは見た目も固さも岩のよ
うだった。
「料理なんてある程度までは“慣れ”ですよ。私だって毎日料理してなかったら、全然上
達しなかったと思いますよ?アークさんだって。」
ククルが片っ端から汚していった調理器具を洗いながら、リーザはククルに笑いかけた。
「そうなのよ。あいつってば料理上手いのよねー。男のくせに…。だから余計、普段料理
する気が失せるのよ。」
はぁーーと盛大にため息をつく。
「でも、アークさんはきっとククルさんの作ったクッキーを食べたいと思いますよ?わた
しは。」
ふと、近くからリーザの声が聞こえる。顔を上げるとすぐ目の前までリーザが来ていた。
「…こんな石みたいなクッキーでも?」
「う……アークさん、顎も強そうですから、普通に食べれるんじゃないですか?(汗)」
「誰の顎が強いって?」
「「きゃぁぁぁぁ!!」」
突如後ろから聞こえてきた結城比呂ボイスに、思わず二人は悲鳴をあげた。
驚いて後ずさった二人に対し目を丸くしたアークだったが、すぐに申し分けなさそうに手
のひらを立てた。
「ご、ごめんごめん。そこまで驚くとはおもわなくて…。」
「アアアアアアーク!!なんであんたがここにいるのよ?!しかもさっき私が吹っ飛ばし
たのに無傷だし!!」
「とっさにマジックシールド貼ったんだよ。爆風までは防げなかったけど、エルクがいい
クッションになってくれたから俺は助かった。」
爽やかに非道い!!さすがは“極悪犯罪者”の名を欲しいままにしている勇者である。
「ところで、さっきかここで何して……あ、クッキーだ。これ、ククルが作ったのか?」
調理台の上にあるクッキー(失敗作)を見つけて、表情を明るくするアーク。
「え…ええ…まぁ…。」
その嬉しそうな顔に、気まずそうに、でも内心ちょっとだけ喜びながら、ククルはしどろ
もどろ答えた。
その言葉に、アークは心底感心したという風に目を丸くした。
「へぇ。すごいじゃないか。ククルもやればできるんだな。なぁなぁ、これ、食べてもい
いか?」
そう言ってクッキー(失敗作)に手をのばそうとすると…
「食べちゃ駄目――――――!!!!」
響き渡る本日3度目の轟音(in炊事場)。しかしやっぱりアークはマジックシールドを
貼って防いだため、シールドに跳ね返された天の裁きは炊事場の壁を突き破り、本日4度
目の轟音の源となった。
「ククル…。クッキーひとつに何もここまでしなくてもいいだろ?」
もくもくと煙をあげながら大きく開いてしまった壁の穴を見つめて、アークが淡々と呟く。
「もううるさいわねーー!いいからあんたは早くどっか行ってよ!!!」
そんなアークを無理矢理引っ張って、ククルはアークを炊事場から押し出した。
「私がいいって言うまで、絶対ここには近づかないでよね!!」
そうきつく言い放って、ククルは炊事場の扉を思いっきり閉めた。
「何故か…ククルの機嫌が悪いんだよ…。」
炊事場を追い出されて、ちょっぴり凹んだアークは、エルクの治療をしながら愚痴ってい
た。
「俺、なんかククルに悪い事したかな?」
「あーー…でもあれだろ?ククルさん、急に機嫌悪くなったりするの、ザラじゃん。んな
にあんたが気にすることねぇよ。」
やや落ち込み気味の友人を、エルクは宥めた。
「多分あれじゃねぇか?クッキー作ってみたはいいけど、上手くできてなくて、それであ
んたに当たったんだよ。ククルさん、料理下手だもんなー、うん。」
妙な確信を持って、一人頷くエルク。
「そうか…そうかもな。」
エルクに言われて、やや気分が浮上してきたアークは、ふと頭に浮かんだ疑問に首をかし
げた。
「あれ?でもなんでククルはクッキーなんて作ってるんだろう?」
「…さぁ?単に食べたくなっただけなんじゃねぇか?トウヴィル洋菓子ねぇしよ。」
「ふぅーん…あ、そうだ!俺、いい事思い付いたぞ!」
“いい事”を思い付いて一気にテンションを上げたアークは、エルクの腕を引っ張った。
「俺、ちょっとシルバーノアに行ってくるよ。エルクも来るか?」
「んーー…オレ今日暇だしなーー。じゃ、オレも行くわ!」
言って二人はなかよくシルバーノアへ走っていった。
ちなみに戦い日暮らしな彼らの頭には、“バレンタインデー”の“バ”の字もなかった…。
合計8回に渡る失敗を乗り越えて、ついに!
「やったーーー!!ついに完成したわーーー♪」
「おめでとうございます♪ククルさん!」
手を取り合い、きゃぁきゃぁと飛び跳ねるククルとリーザ。二人のすぐ横には、先ほど出
来たばかりのクッキーが周りの空気を温かくして、ほのかに甘い匂いを漂わせている。何
の変哲もない、ところどころ形が崩れているチョコレートクッキーだが、味は保証付きで
あった。
「本当に美味しかったですよ。これだったらアークさんに食べてもらっても、ちっとも恥
ずかしくありませんね。」
自分のことのように嬉しそうなリーザは、クッキーを可愛くラッピングしていった。
「アークさん、きっとすごく喜びますよ?」
「だといいけどね。」
照れくさそうに笑いながら、ククルはリーザからラッピングされたクッキーを受け取った。
「リーザ!今日一日教えてくれてありがとう!じゃあ私、早速アークにこれ渡してくるわ
ね!」
クッキーを片手にリーザにお礼を言って、ククルは炊事場の扉を開けようとした…
と。
「あ、ククル?」
「きゃぁ!アーク!何あんた扉の前に突っ立ってるのよ?!」
扉を開けたところに、なんとアークの姿があったのだ。なんとなく条件反射で、ククルは
背後にクッキーを隠してしまった。
「突っ立ってたというか、ドアをノックしようとしてたところなだけど。」
驚きを引きずっているのか、アークはなんだかきょとんとしてる。
「まぁ、なんだっていいけど。で、私に何か用だったの?」
まだドキドキしている胸を押さえながら、何気なくククルは聞いてしまった。
そんなククルの問いに、にっこりと笑顔を作って、アークは密かに手にしていた布包みを
開いた。
「「あ。」」
包みの中身をみたククルと、後ろで二人を見守っていたリーザは一緒に固まった。
なぜならそこには…
「さっきシルバーノアの台所で作ってみたんだ。少しエルクにも手伝ってもらってね。」
布の上にのせたクッキーを嬉しそうに見せながら、アークは言葉を続けた。
「ククル、クッキー食べたかったんだろ?自分で言うのもなんだけど、結構上出来なんだ。
良かったら、これから一緒に食べないか?」
「……アークの……」
「ん?」
「アークの馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!!!」
手に自分が作ったクッキーを掴んだまま、ククルはアークを跳ね除けて表へと走り去って
しまった。
「え?な、なんで馬鹿って言われるんだ?」
「うーーん…今回ばかりは、アークさんが悪いかも…しれませんね。」
二人から距離をおいて見守っていたリーザが、そっと苦笑いをする。そんなリーザの言葉
にアークは再度首をかしげた。
とりあえずククルを追おうと、アークは神殿の外へと出た。しばらく道を辿ってみると、
川岸に、見つけてくださいと言わんばかりに、座り込んでいるククルを見つけた。いかに
も拗ねてるという感じの空気が伝わる背中に困惑しながら、アークはククルに近づいてい
った。
「ククル…?何をそんなに拗ねてるんだよ。」
ククルは答えない。代わりにぷいっと反対方向に顔を向けてしまった。さて本当に困った
という具合に、アークは眉尻を下げて言った。
「ククル…ほら、一緒にクッキー食べよう?」
ククルの方へと布に乗せたクッキーを差し出す。ククルはそれを一瞥し、拗ねた口調で言
った。
「…口移しじゃないと食べない。」
「ク・ククル!!////」
思いっきり不意打ちを食らい、アークは珍しく赤くなった。そんなアークの様子を確認し
た後、ククルは再びそっぽ向いてしまった。
なかなか振り向いてくれないククルに、アークはひとつ大きなため息をついた。クッキー
を一つ取って口元へと持っていき、口で挟む。
「…ふう?(喰う?)」
クッキーを咥えてもごもご言うアークに、ククルが面倒臭そうに振り返る。馬鹿正直にク
ッキーを咥えて待っているアークに対し、盛大にため息をつきながら、ククルはアークへ
と顔を近づけた。
もぐもぐ。
「…美味い?」
期待を込めた目で、アークがククルの顔を覗き込もうとして来たので、ククルはとっさに
俯いてしまった。
(……めちゃくちゃ美味しい。)
心底泣きたくなって、ククルは自分の焼いたクッキーが入ってる綺麗なラッピング包みを
抱きしめた。
確かにこのクッキーの味は悪くない。はっきり言って過去自分が料理した中で最高の逸品
だと言ってもいいほどだ。それでも、見目も、そして若干味も、アークが作った方が上で
あった。
癪に障ったから、もらえる物だけもらっておいて行こうか…と何気に酷いことを、ククル
が思案していると
ガリッ!バキッッ!!
ゴリッゴリッゴリッ…
「なっ…!あんた、なんて音出してんの?」
まるで石を噛み砕くかのような、その音の発生源は、アークの口からだった。
「ぅん?(ガリッガリッ)クッキー食べてるだけだよ…ククルの(ゴキッ!)」
「はぁ??!!あ、あんたいつの間に取って来たのよ??!!」
慌てまくるククルを目の前にしても、平然とアークは言った。(食いながら)
「さっき台所へ行った時、目に入ったから咄嗟に。それにしてもすごいよな、ククル。普
通、小麦粉だけでここまで強固な物質作れないぞ。」
「んな事言われても、ちっとも嬉しくないわよ!!!」
手加減なしで、本気でアークへ拳を突き出す。
しかしその渾身の攻撃は、あっさりとかわされてしまった。(ムカつく…!)
「あーもー!なんか今日はもう疲れたわぁー。」
ガクッと力尽きたかのように、その場にへたりこんだククルを不思議そうに見返しながら、
アークはなおも見当違いな事を言い続けた。
「…でもさ、こういうのも…いいよな。」
「何が!!?」
疲れた目でキッと睨みつけてやると、アークは小さく肩を揺らして、ふふっと嬉しそうに
笑った。
「ククルに料理を作ってもらうことさ。ほら、いつもは俺が作ってるだろ?それはそれで
楽しいけど、たまにはこういうのも新鮮な感じでいいな♪」
予想外の発言にククルの目が丸くなる。そんな事は特に気にもせず、さも自然にアークは
彼女に笑いかけた。
「良かったら、またクッキー作ってくれよ。な?」
あの失敗作の、石のようなクッキーを食べてから、始終機嫌のいいアーク。脱力を通り越
して呆気に取られてるククル。まったく対照的な空気を纏った二人は、しばし無言で見つ
め合い…
「そんなに欲しいなら、あげるわよ。」
アークの手の中に、ぽんっと投げ出された綺麗な包み。
何だろう?とアークが思ってる間に、ククルは立ち上がり、猛ダッシュで川岸から離れて
いった。
「え?ククル!これ一体何??!!」
遠ざかる後姿に慌てて問いかけるアークに、ククルはその足を止め、勢いよく振り返って
大声で応えた。
「このククル様のクッキーを食べるからには、来月はお返しにフルーツロールケーキぐら
い作って持ってきなさいよ!」
少し乱れた髪をざっと払いのけながら、わざと尊大に笑ってみせる。
そんな彼女にアークは、一瞬呆気にとられた見開いた目を、眩しそうに細めて見つめなが
ら、
「ああ。リーザにきちんと教わっておくよ。」
と微笑み返したのだった。
Fin
と
ここまでで終わったら、普通にいい感じだったのだが
最後の最後に、いらん事を勇者様がぽつりと呟いた。
「ところで、どういう風の吹き回しで、クッキーなんか作ったんだ?」
「あんたはバレンタインデーすら
覚えてないのっ!!」
本日ン回目になる天の裁き発動!
それに伴うマジックシールドの発動!
そして引き続き、跳ね返った天の裁きによる、神殿の一部破損(涙)
とどめに、熱にうなされていたヘモジー、瓦礫の下敷きに(滝涙)
「ちょっとあんた!そのチョコクッキーの意味、分かってないんだったら返しなさいよ!」
「嫌だ!絶っ対、嫌だ!!(必死)返すんだったら、俺今日の晩御飯作らない!!」
「あんた、そんな事したらそれこそ血ぃ見せるわよ!!」
そんな恋人達のろくでもない言い合いというかじゃれ合いが、夕焼けの空の下、いつまで
もいつまでも続いたとさ(嫌な終わり方)
追記:
翌日、何箇所も壊れた神殿を見て、どうしたものかと悩むアーク一家。
修理は早急にした方がいい…が、これ以上出発の予定を延ばすわけにもいかないし…。
というわけで、実戦であまり役に立たない(酷)ポコとヂークベックを無理やり置いて行
ってシルバーノアは旅立ち、ククルは二人(?)+ヘモジーをこき使いまくって、むりや
り1日で直させたという、ほほえましいエピソードもありました。(←ほほえましくねぇ)
今度こそ本当に終わり★
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