花 |
気付くと、体が動かなくなっていた。
その次に、手足の先から体の中心部へ、白いものが広がっていった。
小さな。
小さな。
白い花。
「ククルさんって、花みたいですよね」
目の前にいる少女が呟いた。
彼女、リーザは、桜の花を見つめていたその瞳を、ククルに移していた。
きょとん、としたままのククルを見て、リーザは慌てた。
「あ、あの、花みたいに綺麗だなって」
「ああ、そうなの。ありがとう」
言葉とは裏腹に、未だ晴れない顔を見て、リーザは首を傾げた。
サニアがリーザを突付く。
「アンタねえ、ククルに“花”は禁句よ」
「え?」
「どっかの馬鹿が、『花の命は短い』なんて言ってるでしょうが」
「あっ」
慌てて手で口を押さえるリーザを見て、ククルが微笑んだ。
「大丈夫よリーザ。ありがとう。あなたは心から褒めてくれたんだから」
やっと戻った笑顔。
リーザはククルに微笑まれ、顔を赤らめ俯いた。
つられて、そこにいる面々も笑って。
その一帯が、柔らかい風に包まれた。
それまでは何ともなかったのに、その“時”が来てしまうとわかってしまう。
これからの運命。
だから、最後に花を咲かせる。
「どうして花は咲くんだと思う?」
夜、恋人と二人っきりで桜の下を散歩しながら、思わずククルが零した言葉。
アークは、顔をしかめながら、答えた。
「子孫を残すためじゃないのか?」
その返答を予想していたとでも言うように、ククルはふわり、と笑った。
「……違うのか?」
「花を咲かせなくても子孫を残せるものもあるのよ」
ふふ、と笑って、また顔を曇らせる。
「トッシュは、よく、『花の命は短い』って言ってるわよね。
でも、私はそうは思わないわ。花を咲かせるために、種や球根の時から力を蓄えて
いるんですもの。
ただ、花でいる時が短くて、他を見てないのよ。」
いつもより多弁な彼女を不審に思い、思わず顔を見つめる。
自分の様子も、彼の様子も、気付いていないのか、彼女はなおも言葉を紡ぐ。
「リーザにね、私、花みたいって言われたの。花みたいに綺麗って。でも」
「私は今、花なの」
ふわり、風が吹いて。
ふわり、春のように暖かい腕が、ククルを包んだ。
「夢を、見たの。体の先から、どんどん花が咲いていって、私は――――」
アークの胸に顔を埋め、服を掴み、ククルは声を詰まらせた。
小さく震える体を、壊さないようにアークがそっと抱きしめる。
――――花は、死を覚悟した時に、花を咲かせる。
――――最後に命の花を咲かせる。
「だから、花は綺麗なのかもしれないな」
ただ、零れ落ちた言葉。
手の内にある花に。空に咲き誇る花に。
風に吹かれ舞行く花の中、ただ互いの体温を感じ合う。
今、生きている証。
手足の先から。額から。伝わり続ける命のぬくもり。
「ククル」
待ちわびられて咲く花の。
惜しまれながら散る花の。
その名前を口にして。
「君の花を見せて」
季節が巡り、また何処かで出会えることを願う。
「花は、綺麗なうちに愛でておきたいもの、じゃないのか?」
そう言って唇を寄せる彼に、彼女は身を委ねる。
顔が桜に染まる。
「俺が、花を散らせないようにするから――――」
彼が彼女に伝えた言葉。
彼の“花”が、ようやく笑った。
花は散るのが定めだと言う。
花は散るからこそ美しいのだと言う。
永遠に散らない花など、願ってはいけない。
けれど。
その美しさと儚さは、記憶の中に刻まれる。
心の中で咲き続ける。
思いは人々へ受け継がれる。
美しい花に心奪われたその一瞬が、永遠となって心を支配するように。
ならば祈ろう。
彼の中で咲き続けることが出来るように。
こんなもの投稿しちゃって良かっただろうかと思いつつ。
高3の時、国語の演習でやったプリントからインスピ。
「I was born」という詩を書いた人(名前忘れ)のエッセイで、
“茶”は何かの方法で花を付けずに次の代を(人工的に)作ることが出来るけど、
十分な養分を与えても実を付けない=死期が近いことを悟ると、白い花を咲かせる、という話でした。
何だか凄く印象的で、ククルが手足の先から花を咲かせる場面を思いついてしまったわけです。
2のククルは、花開いてしまったんだなーと。1はつぼみで。
1は子供から大人への過渡期で、2では既に少女時代は過ぎてしまったのだなー、と。
ベクトル変わって、さらに蛇足。
平安時代以降、日本では花は桜を指します。それ以前は梅だったそうですが。
一般的に「花」と言ったら桜なんです。「花見」も「桜見」とは言いませんしねえ。
無駄にあとがきが長くなりました。すみません。いつものことです(待て)
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
作者: ほるん
緑の角笛
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